scene5「虚数頁の枕詞」

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 そもそもの話。  この奥勢という町に関する記述自体が少ない。  奥勢の開発が開始された八年前ーーそれ以前には、そもそも現在の<南区>と呼称される地域以外は、国内でも有数の広大な森林が広がっていたとのことなのだ。  そう、<南区>。  あの怪人のテリトリーだけは、他の地区とは違い、昔から存在し続けているのだ。  となるとやはり、手がかりは<南区>に行かなければ手に入らないのだろうか。 「…………………………」  あの場所に足を踏み入れるのには、抵抗があった。  僕は前回の一戦で、あまりに多くのものを失ってしまっている。  今でも全身に残る、筋肉痛と打撲痕。  消えてしまった対馬さん。  そして極めつけに、僕は今もーークラゲの無事を確認できていない。  対馬さんも伊予も、彼女が生還したことを前提に話を進めていた。  しかしそれは何の保証にもならない。
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