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僕はもうほとんど消える寸前の、豆粒ほどの範囲しか見えなくなっている眼を動かして『あの人』の表情を確認する。
――恐ろしい程に美しい貌に、けれども称えているのは満足気な笑み。
あの豪炎の中で、
『あの人』が僕に向けた、まるで希望を見つけたかのような微笑みを辛うじて覚えている。
「私はもう、ここで死ぬつもりだよ」
そう言って、僕の肌にそのたおやかな指を這わせる。
その部位は炙られてぐちゃぐちゃに爛れてしまっていたというのに、不思議と痛みは感じなかった。
むしろ、その火傷が実は質の悪い冗談であったかのように、嘘であったかのように、霧散していくような気すらした。
「ああ、勘違いしないでくれ。悲観するようなことじゃないし、別に君を道連れにしようなんて考えちゃいない」
僕は答えることができない。
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