scene5「虚数頁の枕詞」

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 もしも、自分の身の丈に合わない真実を手に入れたいと望むのであれば、そこに必要なのは引き換えるに足るだけのリスクである。  安全な自室から検索窓に打ち込むのではなく、どこかに残る痕跡を、自らの足で探し出さなければならない。  勿論、それは危険なだけでなく、非常に億劫なことでもある。  生身であるのだから走れば息は切れるし、遠くまで赴こうとすれば疲労だって負わなければなるまい。  仮に見つけ出せたとしても、今度は社会的・物理的に元の位置に戻るための、無報酬の帰路が待っていることを忘れてはいけない。  そう考えれば、一番現実的な方策は諦めることなのだろう。  そうすれば一切の負担から逃れることができる――いずれほとぼりが冷めた頃に、マスコミが特集でも組むだろうと。  そう、緩慢に。  そんな時間が、あるのなら。
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