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異常気象のニュースも珍しくなくなった、そんな時代。それは突然現れた。はじめに確認されたのは記録的豪雨の中だった。都心を襲った数メートル先を見えないような激しい豪雨。たまたまそれを撮影した人が、あることに気がついた。雨のなか、揺らぐ巨大な獣の影に。不可思議な現象に少しだけ世間が注目した。でも、それだけ。こういう類いの騒ぎは少したてば忘れられてしまうもので。だが、この雨の中の現象はそれだけでは終わらなかった。揺らぐ物体は様々な場所で次々に目撃された。それも決まって雨の時に。しかも、それは人々を襲い始めた。『W』と呼ばれるようになったそれは、雨の日以外も、川や海などある程度の水がある場所にも出現した。汚染物質が原因とか、いろいろ言われているが、今もなおWの根本的解決策は見つからない。
人々の安全を守るため、それを退治する専門の特殊部隊が組織され、全国各地に配置された。雨理は高校卒業後、その部隊に入隊した。入隊のきっかけはすごく単純で。自分の名前のためだった。子供のころは気に入っていた『雨理』という名前。でも、Wが出現したからといいうもの、雨理という名前に罪悪感を抱くようになった。そんな気持ちになったのも全部Wのせいで。そして、いつのまにかWを倒したいという思いにかられ、入隊を決めた。しかし、結局は自分の名前がもっと嫌いになった。雨のたびに出動し、戦う日々。先の見えない戦い。
雨も、雨理という名前も嫌いになった。
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