私は自分の涙をぬぐえない

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 自宅へ戻ってきた雨理は、そのままベッドに倒れこんだ。  頭を横にし、窓の外を見る。どんよりとたれこめた雲。もうすぐ雨が降りそうだ。雨が降れば呼び出される可能性が高い。だから今のうちにシャワーを浴びたり夕食を済ませたりしなければならないのに、とてもそんな気になれなかった。  密かな失恋…………いや、恋と呼ぶのにはまだ早いそれは、ちょっとした期待めいたものだった。  長らくともに戦ってきた同期の隊員。気心が知れていたし、一緒にいるとすごく楽で。別にずっと意識していたわけではない。ただ、いつかの飲み会で事務の女の子に言われた一言。 『お二人、いい感じですよね』  小声で囁かれた一言で、彼のことが急に気になるようになった。一緒にいると楽しいし、そういうのもありかなんて思ってた。でもなかなか言えなかった。  入隊間もない頃の失恋が、雨理を臆病にさせていた。 『繊細な子が好きなんだ』  好きになった相手から、想いを告げる前に言われた一言。それは、男に混じり戦う自分には一番似合わない言葉だった。繊細とか、女の子らしいとか、まるで似合わない。  だから、同期の彼にもなかなか言えなかった。そして、ついに今日言われてしまった。 『俺、今度結婚するんだ』  嬉しそうに言う彼に、良かったじゃないと祝福した。ショックなど感じさせない笑顔で、不自然にはしゃいで。 『彼女がいるならいるで、教えなさいよ』  祝福の言葉とともに、そう言ってからかった。だって、彼女がいるなんて全然知らなかった。というか、気がつかない自分が鈍いのか。
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