交錯する運命

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 …――呼び止められて、振り返るとそこには魔王がいた。  冬晴れの空気が冷たい空の下、俺は彼女と二人で久しぶりのデートに来ていた。過酷な労働条件と待遇で働き続ける俺達にも一時の休息が必要だったのだ。そんな俺達が海が見渡せる小高い丘の上から海に向かって歩いていると、突如、空が曇りだし鉄の歯車が錆びて軋むような声色で言われた。 「ぬう。そちらに問おう。そちがずっと探し求めていた運命の人か」  はあ? 突然、現われてなにを言い出すかと思えば運命の人とな。魔王、お前、どこからどう見ても男だろうが。仮に両性具有だとしてもその言動と見た目はオッさんそのものじゃないか。顎が割れ濃いヒゲがまぶしいオッさん。俺にはそっちの趣味はないぞ。大体、彼女と一緒にいるのが見て分からないか?  目つぶし喰らわすぞ。 「今一度、問おう。そちが我の運命の人か?」  ……ケツを貸して欲しいのか。だったら他のヤツを当たってくれ。俺はノーマルだし彼女だっているんだからな。それにしてもなんだよ。過酷な労働条件と待遇で働き続けたまの休みでデートをしていたっていうのになんでひげ面のオッさんに絡まれなきゃいけないわけ?  神様は俺になにか恨みでもあるのか。屁こくぞ。 「魔王。ここで会ったが百年目。覚悟しなさい。首を刈ってあげるわ」  おいおい。どうした。アイツは魔王だぞ。俺達しがない労働者諸君が魔王なんかに敵うわけがないぞ。毎日があんまり過酷な労働条件と待遇で頭がイカれたか? イカれたにしても魔王に挑むなんて……。 「ぬう。やはりそちが我と運命が交錯する事を宿命付けられた人のようだな。よかろう。相手になってやる。かかってくるがよいぞッ!」  相手になるって……。俺は男だ。ケツを貸さないし借りたくもない。間に合ってます。結構です。他を当たって下さい。 「全力で行くわよ。さあ、勇者も早く準備して。魔王を倒すわよ」  だから僧侶、年中無休で二十四時間魔物を倒し続けて魔王を討伐する仕事をしてるけどよ。相手は魔王だぜ。本当に大丈夫かって、……あれ?  なにかを忘れているような気が……。 「さあ。運命が交わりしものよ。かかってこい」  そうだ。俺は勇者だった。魔王(こいつ)と運命が交錯する事を宿命付けられた選ばれし勇者だった。ま、労働条件や待遇は劣悪だけどね。あはっ。 交錯する運命、了。
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