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六辺香――。天から降る雪の別名。幼い頃、雪が降る町であの人が教えてくれた言葉。
両親に連れられ初めてお宅にお邪魔した時、多くの本を前にして目をきらきらさせている私にあの人は一冊ずつ説明をしてくれた。
「どれか持って行くかい?」
止める両親の話も聞かず、あの人に早く追いつきたいと年齢には不釣り合いの分厚い本を譲ってもらった。
「あ、雪」
気が付けば雪が降り出していた。
「六辺香だな」
「六辺香?」
「雪の別名だよ」
おいとまする時、私は頂いた本を胸にしっかりと抱き、両親は挨拶をしていた。本当はまだ此処に居たくて涙が出そうで、でも泣いたら子供と思われそうで必死に涙をこらえていたらあの人が近づいて来た。
「また会えるよ」私の頭を撫で、優しく言う。
「またっていつ?」
「そうだなあ……六辺香がまた降る季節に」
六辺香を見るたび思い出す、私の小さな初恋。
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