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「ねぇ坂内、何でそんなに落ち着いてるの?」
むしろ坂内よりも落ち着いている──というか楽しんでいるように見える朝霧が問いかける。頭いいやつの思考回路はどこかぶっとんでいるのだろう。彼女は中等部に一人しかいない特待生。元々頭のいいことで知られる偏差値68の海江乃学園のなかでも、ずば抜けた実力の持ち主。
しかも、勉強を滅多にしないのだ。
家庭教師の監視のもと月1で3時間は勉強するのと、テスト前に教科書を見直す。本当にそれだけ。まさに彼女は天才と呼ぶに相応しい。
天才の思考回路は怖いね、と半ばあきれながら坂内は口を開いた。
「むしろ朝霧の方が落ち着いてる」
「そんなことないよ、だって超ワクワクしてるもん。異世界トリップきたんじゃない? 超主人公じゃない? 私たち」
やっぱりどこか壊れてるこの人。
でも残念なことに、朝霧の発言は間違ってなかった。そんなわけない、と言う他の凡人が馬鹿に見える。普通の状況なら、馬鹿は朝霧のはずなのに。
「そうだよ」
坂内がよく通る声で一言。他の4人の動きが止まる。
「ここは、異世界だ。っていうか、ここは、」
「ふざけんな! なに言ってんだよ!?」
「……来人」
掴みかかってきた石原の腕にそっと手を添え、坂内は呟いた。
「本当なんだよ」
「……わかんないだろっ! 異世界ってなんだよ、どーせドッキリかなんか……そうだよドッキリだ! そうに決まってる!」
石原の目から、いつのまにかあふれでていた涙を、坂内が指で拭ってやる。石原をきっかけに他も慌て出したようで、帰りたいだの誰か見てるなら出てこいだのと声を張り上げている。
朝霧を除いて。
「いいか皆、落ち着いて聞いてくれ」
坂内は、石原を受け止めたまま静かに呟いた。
「ここは、僕の作ったゲームの世界なんだ」
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