第1章

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そよ風の音に耳を澄ませると君の声が聴こえる気がする。 青々とした木々の根元で私は眠る。 木々は私を支えるには充分な大きさがあった。ここが豊かな土地である証拠だ。水分が足りていれば、光合成するのにも全くの支障はない。 私はピンクの花に目を付ける。 夢羽(ムウ)と呼ばれるこの花は私を毛嫌いしているのだと分かる。何もこの花が特別なのではない。私は他所からの厄介者だ。侵入して来た異物であり、いくら愛を説いたところで雑音にしかなり得ない。丁度、悪徳議員が自分を正当化させようと必死な演説をかましているようなものだ。それよりタチが悪ければ、事故前の甘い女の声のラジオの放送やツンデレの悪友からの電話だ。 私は夢羽を折った。 華奢な足に花びらを散らしながら軽やかに笑った。 ーーこの街、駈流美亞(カルビア)で住みたい。 私は確かにそう言ったかもしれない。 花びらを木々の根元に集めて茎だけになった夢羽を食べた。思ったより美味しく、私の体に馴染んだ。 夢羽という名前を味わうように軽く甘噛みしていく。 ーーそうか。人間のフリをするのに必要なものを見つけた。 私は立ち上がった。 狐耳がそよ風に揺れ、君の声を掻き消した。
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