第1章

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「は?」  俺は聞き返した?  奴の口からそんな言葉が出た事に違和感を覚えたのだ。  俺が何か落としたのならば声をかければいいのだ。それにこいつが何故こんな被り物をしているのかも大いに疑問で、何一つとして整合性が取れていないのだ。  そんな俺の不信感と敵愾心など意に介せずこいつは話を進める。  不意に手提げカバンを漁り、何かを取り出す。それは、 「銀の、木魚を、落としませんでしたか?」 「なっ、!」  鞄の中から出てきたのは銀線の光を放つ木魚。昼間だというのに日光を覆い尽くすほどの鋭い光を放っていた。 「それとも、金の、木魚ですか?」  次いで、黄金に輝く木魚が現れ、俺はついに確信した。  ヤらなきゃ、ヤられる。 目の前の現象は奇妙奇天烈、複雑怪奇、空前絶後の厄災だ。  俺は覚悟を決めた。 「すみませんでした!」  俺は千円札を奉納し、土下座で屈伏を示した。  勝てない敵とは戦わないのが賢いやり方である。 千円と引き換えに命を取り留めるのなら安いものだ。 「ふっふふ、ふふふふ。あはははははは!」  突然、奴は笑い出した。 被り物をしていて表情は窺い知れなかったが声音からしておかしそうに笑っていた。 俺の姿を面白そうに笑ったのかもしれない。 「ふっふっふ、辰巳」 「え?」  突然名前を呼ばれ顔を上げて目を見開いた。 あれ、この声、聞き慣れてるぞ。 「からかってごめんねー。お姉ちゃんでしたー!」 「死ね!」  土下座の状態を解いて片膝を上げ跳躍、姉貴の鳩尾に頭突きを決めた。 「ほごぉぉっ!」  女とは思えないみっともない声を上げた。 悪の権化はまさしく撲滅してみせたぞ。
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