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呼び止められて、振り返るとそこには先ほど倒した魔王の死体しかなかった。
「確かに呼ばれた気がしたんだが……気のせいか」
自分でも気付かないうちに魔王との闘いを楽しんでいたのかもしれない。自分が全力を出して闘える相手は魔王しかいなかった。
魔王に止めを刺して全てが終わった後に感じたのは達成感よりも虚無感だ。もうヒリヒリとした緊張感のある闘いをすることができないと思うとなんだか虚しかった。
だから、実は魔王が生きていて俺のことを呼び止めたのではないかと錯覚してしまったようだ。
国に帰って魔王が消えたことを報告しよう。そう思ってその場を離れようとすると、
「待てって!下だよ下!もっと視線を下げてくれ!」
確かに声が聞こえた。声の指示に従って視線を下げると、丸っこい物体がある。
「……スライム?」
それはゼリーを無理やり寄せ集めて固めたような軟泥状の物体、スライムだった。目はあるが口が無く、どこから声を発しているのかもわからないが俺を呼んだのはこれだ。
「お、気付いたな。俺のことはドローンって呼んでくれ!ドローっとしてるからな!これからよろしく!」
「は……?」
スライムといえばどこにでもいる弱い魔物で、魔王の近くでは見かけることもなかった。そんな存在がここにいることも不自然だが、俺に友好的な態度で自己紹介してくることも不自然だ。
俺は勇者で魔物の天敵だというのに……。
「俺には呪いがかかっているんだ。スライムという非力さには見合わない強者が集まってくる呪いがな……。魔王はそんな俺を面白いって保護してくれてたんだ。その魔王を倒したんだから次に俺を護ってくれるのはお前だろ?」
謎の暴論だ。ドローンには目しかないのに何故か確信しているような自信を持っている表情に見える。
でもまあ……強者を呼び寄せるか。面白いな。
「わかった。俺がお前のことを護ってやる。俺に強者との闘いを楽しませてくれ」
俺がドローンに手を差し出すとドローンはビヨンッと跳ねて俺の手にタッチした。
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