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ここで打たなくてどうする、逃げる必要なんてない。
何故なら俺達は強いんだから。
どんな球が来ても打ってみせる、俺はバットを強く握ると全力で叫ぶ。
「さあ来い!」
そして、ド真ん中にきた球を俺はフルスイングした。
次の瞬間セカンドがジャンプする。
俺の打った打球は右中間を破る3ベースヒットになった。
俺は決してパワーがあった訳じゃない、バッティングが良かった訳じゃない。
俺は3塁ベースからベンチへガッツポーズを送った。
ベンチは俺に答えるように立ち上がり盛り上がる。
監督コーチも立ち上がりガッツポーズを送る。
俺の前を走っていたあいつも、歓迎されるようにベンチに戻る。
俺だけじゃない、あいつがいなければこの3ベースヒットは打てなかっただろう。
もし1アウトランナーなしの場面で回って来ていたら、迷わずフォアボールを狙って消極的なバッティングになっていたはず。
最終回、2アウトランナーなし。
監督がみんなを集めてマウンドに集合した。
この後の一言が俺達の人生を大きく変えた。
「勝ったら30日焼肉行くぞ。」
監督の一言に俺達は笑った、盛大に。
「焼肉行くぞ!」
「焼肉焼肉!」
「ぜってぇ三振とれよ。」
決して野球が上手い俺達じゃない、けどここまで来たんだ。
最後くらいは楽しもう。
これが最後の大会なんだから……。
……。
そして俺達は焼肉を食べていた。
小さな小さな大会、今まで一度もした事がなかった優勝祝いをしていた。
誰一人欠けても達成する事ができなかった、何故なら俺達は9人しかいない弱小チームなんだから。
全員が一丸となって戦う事ができなければ、今この瞬間はなかったのだ。
「監督、あの場面で焼肉行くぞはないでしょ。」
そう、みんなが思っていることを代弁したのは俺達のキャプテンだった。
「アホか、キツイ事言うとお前らビビってエラーするだろ。」
「しないから。」
そんな他愛もない会話の中でエースが呟いた。
「監督、30日焼肉って言いましたよね。来月も焼肉いくんですか?」
「アホ、今月だけじゃ。」
また笑いが起こる。
「じゃあ、来年の10月30日に焼肉いこうぜー!」
「賛成賛成!」
「おっけー!」
「……。」
……。
この時俺が何を話していたのかは覚えていない。
けれど、大人になった今でも覚えている事がある。
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