第1章

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ここで打たなくてどうする、逃げる必要なんてない。 何故なら俺達は強いんだから。 どんな球が来ても打ってみせる、俺はバットを強く握ると全力で叫ぶ。 「さあ来い!」 そして、ド真ん中にきた球を俺はフルスイングした。 次の瞬間セカンドがジャンプする。 俺の打った打球は右中間を破る3ベースヒットになった。 俺は決してパワーがあった訳じゃない、バッティングが良かった訳じゃない。 俺は3塁ベースからベンチへガッツポーズを送った。 ベンチは俺に答えるように立ち上がり盛り上がる。 監督コーチも立ち上がりガッツポーズを送る。 俺の前を走っていたあいつも、歓迎されるようにベンチに戻る。 俺だけじゃない、あいつがいなければこの3ベースヒットは打てなかっただろう。 もし1アウトランナーなしの場面で回って来ていたら、迷わずフォアボールを狙って消極的なバッティングになっていたはず。 最終回、2アウトランナーなし。 監督がみんなを集めてマウンドに集合した。 この後の一言が俺達の人生を大きく変えた。 「勝ったら30日焼肉行くぞ。」 監督の一言に俺達は笑った、盛大に。 「焼肉行くぞ!」 「焼肉焼肉!」 「ぜってぇ三振とれよ。」 決して野球が上手い俺達じゃない、けどここまで来たんだ。 最後くらいは楽しもう。 これが最後の大会なんだから……。 ……。 そして俺達は焼肉を食べていた。 小さな小さな大会、今まで一度もした事がなかった優勝祝いをしていた。 誰一人欠けても達成する事ができなかった、何故なら俺達は9人しかいない弱小チームなんだから。 全員が一丸となって戦う事ができなければ、今この瞬間はなかったのだ。 「監督、あの場面で焼肉行くぞはないでしょ。」 そう、みんなが思っていることを代弁したのは俺達のキャプテンだった。 「アホか、キツイ事言うとお前らビビってエラーするだろ。」 「しないから。」 そんな他愛もない会話の中でエースが呟いた。 「監督、30日焼肉って言いましたよね。来月も焼肉いくんですか?」 「アホ、今月だけじゃ。」 また笑いが起こる。 「じゃあ、来年の10月30日に焼肉いこうぜー!」 「賛成賛成!」 「おっけー!」 「……。」 ……。 この時俺が何を話していたのかは覚えていない。 けれど、大人になった今でも覚えている事がある。
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