林檎幸福論

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揚げ物用のお鍋にサラダ油を注いで、かき揚げを揚げ出す。ふぅ、とため息ひとつ。チカチカと点滅する蛍光灯のせいで頭痛がした。 ゆ、る、や、か、さ、をもって殺される。 人が緩やかに殺されていて、そこに退屈を投入されたらそれはとても致命傷なのだ。それはそれでしあわせなのかもしれない、けど。 早死したい、とずっと考えながら生きてきた。いつからだろう。確かには解らないけど、たぶん小学校の低学年の頃だと思う。それは退屈の反対である「衝撃」によって心に致命傷を負ったから、だと思う。 思う、思う、で終わる考察がぽこぽこと湧いてくる。なにも確証のない考察。考察とは呼べない考察。 かき揚げをお皿に乗せていたら、シャワーの音が止まった。思いの外長い時間の後に、脱衣所から出てくる葉露ちゃんの足音がした。もういいかな、とザルにキッチンペーパーを置いて、鍋の鰹節とお出汁を分けるためにそこに注いだ。 「お風呂から、上がった……いい匂いがする」
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