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ずるずると蕎麦をすする音がワンルームのわたしの住処に響いた。食べ終わったら、七時半頃だった。葉露ちゃんを拾ったのが五時半。この子と一緒に二時間、緩やかに殺されている。
「あれ、葉露ちゃん、林檎は?」
「……どこかに行っちゃった」
「あらら……」
「……いいの。大切なものじゃなかったし。あのね、わたし、家に帰る」
「うーん……」
視線を落としたら、葉露ちゃんの崩された足が見えた。お風呂に入ってやっと綺麗な桜色の爪に戻っていたのに、正座していたせいでまた少し青くなっている。紺色のワンピースは葉露ちゃんの顔色を青白く見せる。
「夜遅いし、泊まっていけば?」
うー、と葉露ちゃんは唸る。迷っている、のだと思う。緩やかな思考。退屈。憂鬱。緩やか。
「……泊まって、いく」
葉露ちゃんの返事に、わたしは緩やかに笑った。
*
ぴっちょん、とゆっくりと雫が洗面器の中の水の中に融合していった。それをタイル張りの風呂場の床に全部捨てて、わたしは狭い脱衣所に出る。
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