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そんな生活の中で母は優しい人々と出会った。その人々が母からお金を騙し取らなければ、どんなに良かっただろうとわたしは思う。
「な、か、な、い、で、」
ゆっくりと目をつむる。じりじりと地面が焼けていた。なかないで、泣かないで。母に言いたかった言葉。わたしもう泣いてしまいたいからあなたが泣き止んでよ、笑ってよ。諦めたくなかったよ。
な、あ、ん、て、ね。
しばらく目をつむっていたら、いつの間にか寝てしまったのだと思う。ぶるるるる、という音に目を開くと、今さっき父を乗せていったタクシーが走ってきたところだった。
「……あれぇ?」
ことん、と首を傾げると同時にタクシーがわたしの目の前に止まった。どうしたのだろう。反動をつけて立ち上がって、タクシーの元に歩いていった。タクシーの運転手さんだけが乗っているのを見てなにかに落胆して、その後真剣な顔をしながら運転席の窓を開けたタクシーの運転手さんをじっと見つめた。
「お嬢ちゃん!」
「はい、なんですか?」
「お嬢ちゃんもここの近くの……ええと、『お屋敷』?とやらにいるのかい?」
「わたしじゃなくて、ママがいるの」
「ああ……」
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