林檎幸福論

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タクシーの運転手さんはなにか納得したような顔をした。後から知ったのだけど、母が信仰していたあの集団は、子供のいる家庭を狙っていて、子供から洗脳することによって組織にとって便利なモノにしていた……とか。 「お嬢ちゃん、このタクシーに乗せてあげる。こんなところじゃなくて……お嬢ちゃんのおじいちゃんおばあちゃんは?どこに住んでるんだい?」 「ええと……」 とても優しい人だ、と思った。 涙が出そうなほど優しい人だと思った。 「あのね、葉露はねぇー……」 「遠慮はしなくていいから。さあ、乗って」 ばこん、とタクシーの後部座席のドアが開いた。こっちにおいで、と言われた。こっちは優しい世界だよ、おいで。ちいさなあなたくらいなら乗せていけるから。 ばん、と後部座席のドアを閉じた。 わたしは炎天下の中に、やはり立っていた。 「あのね、葉露はね、ママとずっと一緒なの」 「お嬢ちゃん、」 「ママが笑顔でわたしに言ってくれた唯一のやさしい言葉なの。守ってあげなきゃ、可哀想でしょう」
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