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呼び止められて振り返るとそこには、ちいさな女の子が林檎をぎゅうと握りしめながら立っていた。おねぇさぁん。細い細い声が、助けを呼んでいた。おねぇさぁん、助けて。途方に暮れた眼差しがとても哀しかった。
ついにこの日が来たか、とわたしは曖昧に笑って、その女の子に手を差し出す。
おいで。
*
緩やかに送る日々はわたしたちを緩やかに殺しているのでは、とたどたどしく拙い単語で話す女の子の手を引いて、わたしはわたしの住居である一人暮らしのワンルームマンションに歩き出す。
緩やかに太陽が沈んでいく。もう真冬だ。女の子といえば夏物の薄い水色のワンピースを一枚来ているだけだ。やぁね、虐待?なんて言葉がちらほらと鼓膜に刺さる。
「わたしたちはいつか死ぬ訳だから、ゆっくり生きていくのはゆっくり死ぬ訳でしょう?あとねわたし、退屈は人を殺すって聞いた。だから、わたし、今も緩やかに、死んでる」
「そう。でもわたしはいま退屈じゃないから緩やかに生きてる」
「退屈じゃないの?それは、いいことね」
「このマンションがわたしのお家」
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