林檎幸福論

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血みたいに真っ赤な夕日が落ちていく。都会のスモッグは星空を見事に殺したけれど、まだ太陽までは手を出せていない。がたんごとん、と電車の音と甲高い女子高生の笑い声。煮物の匂いと、女の子の首に巻いてあげた、わたしの赤いマフラー。 はぁっ、と女の子の口元で息が白く視覚化される。 「……その、『ヒトサマ』っていうのは、他人って意味よね」 ちょん、と女の子の手を引っ張る。 「じゃあ、わたしあなたのヒトサマじゃないわ。おいで。あったかい飲み物をあげる」 「でもね、」 「これは運命だから大丈夫」 くるりとした焦げ茶が、穴を開けようとしてるのかと疑わしくなるほどわたしをじぃっと見上げている。色素の薄い薄茶の髪は、夕日の赤がマンションの白い壁に散乱しているこの空間で、燃え立つような色になっていた。 「うん、めい」 ことん、と女の子の首が落ちそうなくらい横に落ちる。首を傾げたかった、のだと思う。女の子の顔や腕は木枯らしに吹きっさらしで赤くなっている。 「うんめいなら、しょうがないわ」 ママがよくそう言ってる。 その言葉を聞いたわたしはくらんとめまいを覚えて、しかし何事も無かったかのような顔を取り繕う。
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