林檎幸福論

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ことん、とまた落ちそうなくらい葉露ちゃんの首が横に傾げられる。いつか千切れそう。 「じゃあ、みらいさん。今日って、何月何日ですか?」 何年、というのは聞かれなかった。何年、というのも答えなかったのをわたしは数年に渡って後悔するのだ。それを解って、わたしはあえて今、現在、何年というのを言わなかった。 「今日は十二月三十一日。大晦日」 「……わたしの今日は八月十三日なんだけどなぁ」 独りごちて、まぁいいか、と葉露ちゃんは首を戻す。とりあえずわたしは化粧を落としたかった。タイツも脱ぎたいし。 「えーっと、ごめんね、わたしお風呂入ってくるから。ちょっと待ってて」 ワンルームマンションのちいさなクローゼットを開いた。一番奥に置いてあるダンボール箱を引きずり出して、ガムテープをバリバリと破いた。中には子ども物の服が入っている。 「は、ろ、ちゃん」 「はい」 「ちょっとこっち来て」 「はい」 ぱたぱたと爪が紫に変色してしまっているちいさな足がこちらに向かってくる。
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