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あの時を思い返すと、二点を除いてモノクロだ。
あのルージュとロングコートが、真っ赤に浮かび上がってくる。
「子供の悪戯書きに見えるぜ!」
そう。彼女に真っ赤なルージュは似合わない。子供っぽい顔をしているからな。だが、新鮮だった。彼女はオレの言葉には何も返さない。ただただ、笑顔だった。
この時はまだ、ただの友達だ。当然のこと肉体関係もなにもない。本当の意味の、よく話をする、異常に気の合うただの友達だった。この日は始めて、ふたりで食事へ行くことに決めていた。
シーンは車内。オレの車の中だ。このワンショットが、オレの脳内から、消えることはないんだ。
オレの失礼とも取れるひとことは、ただただ、オレの照れ隠しだ。オレは彼女にドキッとしてしまったんだ。
オレは彼女のことは何も知らなかった。話が合う、仲のいい友達だったということ以外…。
あの日から二週間後、ティールームで彼女が妙にかわいいことを言ったので、頭を撫でてやった。
――…や…、やり過ぎ…たかな?―― と思った瞬間、彼女は怒りを露にした顔に豹変した。オレはすぐに謝ったんだ。すると…。
「…恥ずかしいじゃない…」
………。
…ん?…、今のって、照れた顔、なのか…。どう見ても、激怒の顔のように思ったが…。
オレは、赤いルージュの話をした。すると…。
「ホント、失礼よね! だからあのルージュはもうしないもん!」
怒りながら、彼女は満面の笑みを浮かべていたんだ…。
その時に初めて気付いたんだ。彼女の瞳だけは、笑っていなかったんだよね…。
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