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呼び止められて、振り返るとそこには、黒の詰襟の学生服の少年が立っていた。
「おじさん、いいことを教えてあげる。
生きている間は、いつだって死ねるけど、
一度死んでしまったら、二度と生きることはできないんだよ」
少年の言葉に、あと一歩を思いとどまらされる。
線路に向き直るが、大きな警笛が鳴り響き、特急電車が目の前を通り過ぎた。
「ちょっと、お客さん、もう少し線路から離れて」
駅員に注意され、もう一度振り返る。
早朝の駅ホームで、駅員と自分以外、人が見当たらない。
少年の姿を探す自分を、駅員が訝しげに見て、ぶつくさと言う。
「お客さん、まさかとは思うけど、もしそうなら、勘弁してよ。
先月、中学生の男の子が一人飛び降りたばっかりなんだからさ」
少年の寂しげな瞳を思い返す。
今日はやめておこうか。
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