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「触れ合いたいと願うからこそ、動物は進化を続けられるんだ」
「うわ。出た。そういう独善的なとこ、キモいわ、超キモいエゴ眼鏡」
「………もはや語尾だな。その眼鏡呼ばわりは」
「語尾みたいだって思うから語尾みたいに聞こえるんだよ耳かっ穿じれ鼻眼鏡」
「そう思うから、そう見えるのか?」
だから。顔が近いっていう。
威嚇行為にしか感じられないっていう。
「あのな、お前の分かり易いように長いセンテンスで教えてやるとだな、恣意的な判断で見れば、この世はどうとでも見えるよっていう話をしたいんだよ、世界の中心クソ眼鏡」
息継ぎしないと喋れない長回しに、やや呼吸困難に陥る。
「顔を赤らめて誤摩化すんだな」
「いや。いやいやいやいやいや」
世界の中心で愛を叫ぶ前に、私の心中を君に叫びたい。
「それなら俺の見たいように、お前を見てしまうのも仕方ないな」
「………お前、国語が昔から苦手だったよな、理数脳クソ眼鏡」
「問題の定義が悩ましいので、悩まされるだけだ。
あれは問題の造りが理論的でないのが悪かったんだ」
「………解せぬ。ていうか暑苦しいんだけどなあ!」
「何だ、脱がせて欲しいのか? それならそうと、」
「触るな。酔っぱらった中年ジジイか、妄想クソ眼鏡」
聞いているこっちが恥ずかしくなるような台詞だ。
だから、もう、いい加減にしてくれ。
勘違いイケメンはティーンズ漫画の世界に帰れ。
「盛大な勘違いをここで訂正しておくけどな、私はお前のモノじゃない!」
「なれないと思い込んでいるから、だろ」
あ、と思った。
遅かった。
頬を引っ叩いていた。
私の手は麒麟の頬を引っ叩いていた。
「ばーかばーか! クソ眼鏡のバーカ!」
ベットに潜る。被る。隠れる。
眼鏡が視界に入らないよう、目を瞑る。
足りない言葉で、ひとまず叫ぶ。
恥ずかしい。
子どもっぽい私が、恥ずかしい。
自分を守るために、引っ叩くしか出来ない。
この弱さが、恥ずかしい。
私の身体一つ支えられない、信念一つ伝えられない。
語彙の少なさも、身体の弱さも、心の揺らぎも。
全てが辛くて、声を出す。
「ばーか、ばーか!」
「馬鹿はお前だ」
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