1、この頭は遥かなミサキの夢を見る

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 世界の誰がどう言い聞かせたって、私は変われないし、変わらない。  朝日の死因を見付けるまでは、私は過去を抱き締めて生きていく。  これが私の生き方だから。 「泣いているのか」 「うっさい。黙れ」  困った顔で、麒麟が私の布を奪った。 「ミサキは変わっていく自分が、怖いのか?」 「私は、凄い事件があっても………変わらないし、変われない」  あんなことがあったのに。  私の気持ちは、結局、ここに辿り着く。  喪(も)に服して、喪に服したままで生きていく。  経を唱えて、写経して、数珠を手にして菩提を弔う。  命日を数えて、私は一人で年を取る。  これが私の生き方であって、私の証(あか)し立てだから。 「………ミサキ」 「私は心中した。朝日と、心中したんだよ」 「秋海堂さん、今晩のおかずは煮物で如何でしょ………う?」  扉がバンと開かれて、そこに現れたのは山鳥だった。  制服にピンクのジャージ、レースのエプロン。  お玉が、からん、と床に落ちる。  朗らかな笑顔が凍り付く。  泣いている私、はだけた胸元。  押し倒されている私、押し倒す麒麟。  イン、ベット。  これを尋常と思える人間はそういまい。 「山鳥………これはだな、」 「警察沙汰、なのですね。夏野松林さん」 「………」  迅速かつ冷静な対応に、私は否定をし忘れてしまった。  つい、うっかり。 「それと救急車………は要りませんね」  ぱきぱき、指を鳴らす、笑顔の山鳥。  多汗症で滴る山鳥の汗が、診察室の床に落ちる。  一滴。  二滴。
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