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世界の誰がどう言い聞かせたって、私は変われないし、変わらない。
朝日の死因を見付けるまでは、私は過去を抱き締めて生きていく。
これが私の生き方だから。
「泣いているのか」
「うっさい。黙れ」
困った顔で、麒麟が私の布を奪った。
「ミサキは変わっていく自分が、怖いのか?」
「私は、凄い事件があっても………変わらないし、変われない」
あんなことがあったのに。
私の気持ちは、結局、ここに辿り着く。
喪(も)に服して、喪に服したままで生きていく。
経を唱えて、写経して、数珠を手にして菩提を弔う。
命日を数えて、私は一人で年を取る。
これが私の生き方であって、私の証(あか)し立てだから。
「………ミサキ」
「私は心中した。朝日と、心中したんだよ」
「秋海堂さん、今晩のおかずは煮物で如何でしょ………う?」
扉がバンと開かれて、そこに現れたのは山鳥だった。
制服にピンクのジャージ、レースのエプロン。
お玉が、からん、と床に落ちる。
朗らかな笑顔が凍り付く。
泣いている私、はだけた胸元。
押し倒されている私、押し倒す麒麟。
イン、ベット。
これを尋常と思える人間はそういまい。
「山鳥………これはだな、」
「警察沙汰、なのですね。夏野松林さん」
「………」
迅速かつ冷静な対応に、私は否定をし忘れてしまった。
つい、うっかり。
「それと救急車………は要りませんね」
ぱきぱき、指を鳴らす、笑顔の山鳥。
多汗症で滴る山鳥の汗が、診察室の床に落ちる。
一滴。
二滴。
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