1、この頭は遥かなミサキの夢を見る

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「………ぶつ切りにしたら煮ます」 「だ、誰のナニを?」  警察は誰のために呼んだのだろうか? 「お嬢様ッ!」 「待っていてね。これから食材をシメますよ、札幌」  たまたま、お玉の音に気付いてやって来た北極星札幌が叫んだ。  メイド服にエプロン姿の北極星が、山鳥に駆け寄る。  ていうか、自分をお嬢様って呼ばせているのか、山鳥………。 「早まってはいけません!」 「早くはありません。寧ろ、遅いくらい。  ああ、私としたことが。  もっと早くこうすべきだったのでしょうね」  診察室のデスクに並べられていた分厚い医学書が、落ちる。  デスクにぶつかったのは、山鳥だった。  死体現象について書かれた、ドイツ語のページが開かれる。  そのとき、私は疑問に思う。  ああ、何でそんな内容なんだって読解が出来るんだろう。と。  一瞬のうちに推理した。  答えは、朝日。  英語はとても難しくて分からないけれど、ドイツ語は朝日が教えてくれたから。  日常で使わない言葉も、朝日が教えてくれた語彙は、読めるんだ。私。  涙が伝った。  麒麟を、押し退ける。  溢れてしまった涙が止まらなくなる。  落ち着きたいのに、落ち着けなくなる。  山鳥が興奮なんかするからだ。  ああ、また、人のせい。  自分の涙も、自分の人生も、自分の生き方も、人のせい。 「もう、嫌だ………」 「ミサキ?」  麒麟が、狼狽える。  私は混乱する。  山鳥が怒って。  メイドの札幌が諌めて。  ああ。酷い画(え)。
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