4人が本棚に入れています
本棚に追加
霊安室のタイル張りの床の冷たさは、格別に人を寂しくさせる。
廃業した葬儀会社の霊安室に無断立ち入りして、間借りするのは久し振りだった。
遺体を安置するための木製の棺桶台に座って、僕は鼻歌混じりで話し掛ける。
操り人形の葬送行進曲は、こんな霊安室にこそお似合いだ。
「………この霊安室もそろそろ使えなくなるな」
「存じ上げております」
知っていたのかよ。
「更地にするのだそうです。アパートが建設されるとか」
「春夏冬(あきない)か?」
「………良くお気づきになりましたね」
全く、カマ掛けの利く男だよ、お前は。
「ここの土地は又貸しだったもんな」
「ええ。この土地は元を正せば山鳥令嬢の所有物です」
「駅周辺の地価を上げる気なんだよな、山鳥お嬢様は」
「………驚きました。そこまでお見通しだとは」
マジかよ。
瓢箪から駒、冗談から出た真、か。
とんでもない。
「あの沿線に新しい駅でも作らせるんだっけか?」
「朝日様、春夏冬様とお会いしてお話しするのは危険ですと、あれ程………!」
随分と危ない橋を渡っている。
何千万、突っ込むんだ。
あの片思いシェヘラザードは。
「止めよう。聞かなかったことにする」
「はあ」
「札幌。危険ついでに教えておくぜ。
次のゲームがスタートする。
早急に準備をしておいて欲しい」
僕の下僕であり、スパイ工作員、北極星札幌の目が途端に輝く。
悪事が苦手な癖に、悪巧みは好き。
僕はそんな君だからこそ、隠し球にリクルートしたんだぜ。
「随分と待ちました」
「そうか? 学校屋上でのあの致傷事件から、一ヶ月も経っていないんだけどな」
最初のコメントを投稿しよう!