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私は自殺未遂でリストカットだらけになった腕の包帯に触れてみる。
幼馴染みの麒麟が手当をしてくれた腕に、血の赤黒い色が滲む。
「ほんと痛々しいな、お前は、って言いたいだけだ」
「う、うるせえ。痛いのはお前だ、医療オタク眼鏡」
「そうだな。痛いな。俺たちは」
私と自分の話をする時。
白衣の眼鏡は、同情とも恋情とも取れない、悲しい目をする。
境界を失った、私と朝日の双子の兄妹の恋を傍観してたときの、目。
あれと全く同じ目なのを、私だけは知っている。
「問題行動の大家という汚名は貴様に譲ろう、進呈クソ眼鏡」
「要らん。現代医療において、瀉血(しゃけつ)は健康に寄与しない」
「血を抜いても、健康になんてならないってことか」
「そうだ」
物々しく頷く麒麟。
「中世フランスならいざ知らず、ここは先進医療のある現代日本。時代錯誤も甚だしい状態だ」
「貧血は乙女の十八番だ、現代っ子クソ眼鏡」
「世界の何処かで飢餓に苦しむ子どもがいる横に、お前が実在するなんていう、この事実はどうしてくれる」
「うるせえ」
自殺未遂を繰り返して、高校で『ミス・リスカ』とあだ名されている、私、夏野松林ミサキは、下心から私を心配する幼馴染み、秋海堂麒麟の家が経営する秋海堂医院に入り浸り、無銭医療行為の常連となるに至っている。
人の善意に頼り切りになっている自覚はしている。
が、しかし。
「にしても………これは何のお医者さんごっこだ。変態クソ眼鏡」
麒麟が嬉々として聴診器を構えていた。
私はいつもの流れで麒麟の言う通りにブラウスの胸元をはだけたが、しかし。
気付いた。
リストカットの治療に、そんな診療は必要か?と。
「俺はいつでも」
秋海堂麒麟が、シルバーのスクエアカットがなされた眼鏡を中指で押し上げる。
「お前の心配だけしかしていない!」
うむ。そのキメ顔は気持ち悪いから、せめて聴診器は外せ。
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