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「お前なあ、受験のことでも考えたらどうだ、単細胞クソ眼鏡」
「短絡的であることは否定しない」
「否定しろ。私よりも偏差値は高いだろ」
「偏差値と複雑な思考性はイコールで結ばれない」
「忘れてた。お前は山鳥や朝日よりは愚かだったな。短絡クソ眼鏡」
診療室のベットに腰掛けて、カーテンを開ける。
真夏の宵星が、やけに綺麗に見える。
埼京線沿線上とは言え、埼玉だからこその空気の静謐。
不意に、思い出す。
朝日と私、山鳥、麒麟の四人で、中学一年の夏休み、花火大会に行ったこと。
でも、何でだろう。
あれは埼玉の戸田だったっけ?
それとも、東京の板橋だった?
細部が朧げな記憶。
私は桃色の花に、オレンジの猫柄の浴衣。
山鳥は、桜と蝉と雪の結晶模様の浴衣。
麒麟は中学校の夏服。
それじゃあ、朝日は、朝日は何を着ていたのだろう?
「………」
あれ。
朝日って、どんな顔をしていた?
どんな声だった?
大丈夫だよね。
私の記憶、なくなってなんか、いないよね。
「………」
記憶が柔らかな夏の夜風に溶けてしまったようで、怖くなる。
寒気がして、肩を抱く。
「どうした、ミサキ」
「どうした、はこっちの台詞だ。奇天烈クソ眼鏡。
コロスケは作れるのか? 江戸時代にでも行くか?
………クソ眼が、」
「黙れ」
病室に垂れ込めるエアコンの風を、遮る白衣の学ラン。
「短絡的だから、こうして迫ってしまうんだろうな」
「マウントポジションを取っても威嚇にしかならねえぞ、野性のクソ眼鏡」
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