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「アイリーンとは結婚しない。断る」
「魔王様? 簡単に婚約破棄出来ないことはご存じですよね?」
「ちょっと待って!」
真央兄ちゃんと銀髪の人でヒートアップしそうになっているのを止めて、私は会話の間に入る。
「真央兄ちゃん婚約者ってどういうこと? 私は聞いてないよ」
心臓のドキドキはもう止まっていた。
「いや、実は俺には父親が決めた婚約者がいてな……。だが、結婚したいのはお前だけだ」
甘く囁かれようが、身体が熱くなることはなかった。
私は無表情のまま真央兄ちゃんの胸を手で突っぱねて、真央兄ちゃんと距離を取る。
すると、真央兄ちゃんは戸惑いながらも離してくれた。
私は真央兄ちゃんに背中を向ける。
「婚約者がいるのに求婚してくる人は信じられません」
「そんな! 違うんだ!」
真央兄ちゃんが色々言い訳を言っているけど、知るもんか。
「魔王様、アイリーン様をどうされるおつもりですか!」
銀髪の人も騒ぎに参戦してくる。
この騒動はこれから一ヶ月ほど、異世界と地球を行ったり来たりして続くのだけど、騒動がおさまったあとに魔王の花嫁修業が始まり、恋人気分を味わう隙間など微塵もないことを、この時の私はまだ知らない。
今はただ、真央兄ちゃんから回ってきた怒りのターンを行使するのみである。
end
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