隣の家の魔王

2/9
前へ
/9ページ
次へ
 携帯の画面に映っていたのは、圏外という文字だった。  ここに来てから、いえ、この世界に来てから何百回と見た文字だった。  私は今、巨大な鳥籠の中にいる。  鳥籠の外はどこかのお城のような豪奢な内装の部屋で、私はこの建物の外が、日本どころか地球でもないことを知っている。 「帰りたい……」  私はポツリともらす。  その言葉に笑いをもって答える人物がいた。 「ククク。いったい何回目の呟きだ」 「うるさい」  私は鳥籠のそばに立つ、笑い声の人物をキッと睨み付けた。  そこにあるのは小さい頃から見慣れた顔。  隣の家の真央兄ちゃんの顔、のはずだった。  今はいつもかけている眼鏡が外され、柔和な顔が精悍な顔付きへと変わっている。  優しいお兄ちゃんは、今や目付きの鋭いただの悪党に成り下がっていた。 「家に帰して!」 「帰してあげるよ。約束してくれればね」 「嫌よ! こんないきなり拉致って、誰が約束するもんか!」  私は学校から帰ってきたところで、制服姿のままここに連れてこられていた。 「じゃあ、帰してやらない。ずっとそこにいろ」  真央兄ちゃんはソファーに座って、私に背中を向けた。 「何でよ! 出してよ!」 「可愛く可愛く過保護に育てたのに、まさか裏切られるとはなあ」 「育てられてない! それに裏切られたって何?」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加