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携帯の画面に映っていたのは、圏外という文字だった。
ここに来てから、いえ、この世界に来てから何百回と見た文字だった。
私は今、巨大な鳥籠の中にいる。
鳥籠の外はどこかのお城のような豪奢な内装の部屋で、私はこの建物の外が、日本どころか地球でもないことを知っている。
「帰りたい……」
私はポツリともらす。
その言葉に笑いをもって答える人物がいた。
「ククク。いったい何回目の呟きだ」
「うるさい」
私は鳥籠のそばに立つ、笑い声の人物をキッと睨み付けた。
そこにあるのは小さい頃から見慣れた顔。
隣の家の真央兄ちゃんの顔、のはずだった。
今はいつもかけている眼鏡が外され、柔和な顔が精悍な顔付きへと変わっている。
優しいお兄ちゃんは、今や目付きの鋭いただの悪党に成り下がっていた。
「家に帰して!」
「帰してあげるよ。約束してくれればね」
「嫌よ! こんないきなり拉致って、誰が約束するもんか!」
私は学校から帰ってきたところで、制服姿のままここに連れてこられていた。
「じゃあ、帰してやらない。ずっとそこにいろ」
真央兄ちゃんはソファーに座って、私に背中を向けた。
「何でよ! 出してよ!」
「可愛く可愛く過保護に育てたのに、まさか裏切られるとはなあ」
「育てられてない! それに裏切られたって何?」
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