7人が本棚に入れています
本棚に追加
○百貨店・事務所・外。
霧生、事務所から出て来る。
霧生「売り場戻りますね」
と、事務所の社員たちに声をかけて出て来る。
○同・五階・廊下
五階・高級ブティックが並ぶフロア。客は老婆ばかりで、販売員も多くが 中年女性。
霧生、高級ブティックに挟まれた通路を歩いて来る。
霧生の声「銀坂百貨店五階・高級婦人服フロア。一着何十万もする服を買いに来 る客が集まる場所……」
霧生、ゴージャスな毛皮に身を包んだ老婆とすれ違う。にこやかに「い らっしゃいませ」と頭を下げる霧生。
霧生の声「彼らの多くは老人で、暇つぶしにやって来る。孤独を紛らわすために 店員と会話をし、勧められるがままに買って行く者。高級服を買うことで生き がいの無い生活を満たそうとする者……」
霧生、通りかかった店で試着する老婆を横目で見る。
霧生「金を抱え込んで余生を腐らせている老人なんだ。殺して金を奪ったって、 誰も困らないんじゃないか……使い道の分からない老人の金を若者が使ってや るんだ。その方がずっと効率的だろ?」
杖を突き腰の曲がった老婆が歩いて来る。
老婆「お兄さん、お手洗いどこかしら?」
霧生「僕がご案内しましょう。お荷物お持ちしますよ」
霧生、微笑んで老婆のショップバッグを持ってやる。高級ブティックの名 前が金色で印字されている。
老婆「ご親切にありがとう」
霧生、にこやかに老婆をエスコートして歩き出す。
霧生の声「どうせ死にきれずにいるんだ。僕が人生を終わらせてやるよ」
最初のコメントを投稿しよう!