Kill(着る)

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○百貨店・五階・高級ブティック『アベル・ジロドゥ』・全景    絨毯の敷き詰められた売り場。高級な洋服が壁面のハンガーラックにずら   りとかかっている。真ん中に立つマネキンが、スーツを着て気取ったポー   ズを決めている。 ○同・店内    大きな鏡の前に立ちスカートを試着する外表美化子(78)。    外表の足元に這いつくばるようにして、制服を着た鴨沢羽衣(22)がス   カートの裾上げをしている。腕にはまち針の刺さったピンクッション     を付けている。竹の物差しで測りながら、上げたスカートの裾にまち針を   刺そうとする。 外表「五ミリよ。端から端まで均等に五ミリよ」    羽衣、手が震える。    外表、ドンと足踏みする。 羽衣「あっ!」    まち針を落としてしまう。 羽衣「すみません!」    慌ててピンクッションから新しいまち針を取って刺そうとする。 外表「時間かかるのねえ。他の人に変わって」 羽衣「でも……他の者は接客中でして」    羽衣、困って笑う。 外表「あんたはイヤって言ってるの!」 羽衣「そう言われましても……」    困って笑う羽衣。麻田秀子(53)も別布綾乃(47)も接客中。    ビニールに包まれた商品のコートを持った霧生が入って来る。 羽衣「霧生君!」 霧生「どうしたの?」 外表「あんたでいいわ。この子と裾上げ代わってちょうだい」    霧生、コートを置くと羽衣に近づく。 霧生「貸して」    霧生、羽衣の腕についているピンクッションを取ると、自分の腕に付け    る。霧生、サッとスマートに外表の前に膝をつく。 外表「スカートの裾をきっちり均等に五ミリ上げてちょうだい」 霧生「失礼します」    霧生、竹差しを器用に使い五ミリ図ると、ピンクッションからまち針を一   本取り刺す。華麗な手つき。 外表「いるじゃないの。ちょっとはマシな子が」    霧生の白く長い指が、まち針をつまんで打つ。    羽衣、その手つきをポーッとなって見ている。 別布「鴨沢!見とれてないで外表様のお修理の商品が上がってるから、修理から 取って来る!」 羽衣「見とれてません!」    羽衣、走り出す。 別布「コラ!走らない!」    羽衣、マネキンにぶつかり「すみません!」と叫んで走って行く。 別布「どうしてあんなのかしら。あの子」    
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