Kill(着る)

6/53
前へ
/53ページ
次へ
   入口で羽衣が恥ずかしそうに起き上がる。 羽衣「あ、いや、覗いてたんじゃないから!明りついてたから、誰かいるのかな あって思って」    羽衣、照れ笑いしながら入って来る。 羽衣「コーヒーも間違えて二つ買っちゃったんだ!偶然!ラッキー!」    羽衣、後ろ手両手で隠していた缶コーヒーを二つ前に出して照れ笑い。    霧生「不自然だろ」と呟く。 霧生「座ったら?」 羽衣「いいの?」   羽衣、恐る恐る霧生の隣に座る。 羽衣「コーヒーどうぞ」    羽衣、赤くなって缶コーヒーを差し出す。コーヒーを持つ手が震えてい    る。霧生の目が冷たく羽衣の震える手を見る。    霧生、缶コーヒーを取って蓋を開ける。 霧生「ありがとう」    霧生、にっこり。はにかむ羽衣。 羽衣「顧客情報見てるの?」 霧生「早くお客様の事覚えなきゃいけないからね」 羽衣「そっか。遅くまで偉いね」   霧生、エンターキーを押して写真を見て行く。 霧生「鴨沢さんは、うちのお客さんの中で誰が一番金持ちだと思う?」 羽衣「えっ?お金持ち?みんなすごいお金持ちだけど……一番は河辺製鉄の社長夫 人かな」 霧生「へえ。僕は、案外この牟田さんみたいな人が一番持ってる気がするんだけ どな」    エンターキーを押す。パソコンには牟田の顔が写る。 羽衣「牟田さんはそうでもないよ。だって、いつも値切るんだもん」 霧生「値切る?」 羽衣「ほら、うちみたいなお店のお客さんって、見栄張って来るからちょっとく らい高くても絶対値切らないでしょ。でも、牟田さんは一円でも安くしてって 言うの」 霧生の声「金への執着心が強いか。儲け話を出すと乗って来る可能性があるな」    霧生、写真を眺めて考える。    羽衣、両手で缶コーヒーを持って恥ずかしそうにしている。 羽衣「ねえ、霧生君はどうしてうちの会社入ったの?私、あんまり考えずに入っ ちゃって、不器用だし売れないし、もう転職しようかなって思ってて……霧生君 は光橋物産にいたんでしょ?あんな大きな所なんでやめちゃったの?」 霧生「知りたい?」    羽衣、生唾を飲み込む。 霧生「同僚が一人死んだから」 羽衣「え……」    霧生、パソコンの画面を見つめる。羽衣、唖然としている。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加