Kill(着る)

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○百貨店・『アベル・ジロドゥ』店内    牟田てい子が歩いて来る。細く骸骨のように痩せた身体に目は意地悪そう   に吊り上がっている。口を尖らせて紙袋を突き出す。 牟田「あんたの店は年寄りを殺そうって言うのか!」    麻田、別布、羽衣、霧生が一斉に振り返る。 麻田「牟田様、何か失礼がありましたでしょうか」 牟田「失礼どころじゃないよ!スカートに針が付いてたんだよ!」    牟田、紙袋からスカートを?みだすと麻田に突きつける。 麻田「針が!?申し訳ございません。すぐに新しい商品とお取替えいたします」 牟田「足に針が刺さったんだよ!今頃は病院だって高くてなかなか行けないんだ からね!」 麻田「本当に申し訳ございません」    別布「治療費要求するのか」と小さくつぶやく。 霧生、商品のジャケットにブラシをかけるフリをしながら様子を窺う。 麻田「お詫びは上のものと相談して後日きちんとさせていただきますので。とり あえずお掛けになってください」 牟田「私は、店長を信頼してここに通ってるんだよ!」    牟田、ソファーに座り口を尖らせる。 麻田「本当に申し訳ございませんでした。すぐに新しいものをお持ちしますの で」 別布「鴨沢!倉庫からすぐに新しいスカート取って来る!」    羽衣、「ハイ!」と言って走って行く。 麻田「牟田さん、お詫びと言っては変ですが、牟田さんの為にドレスを取り置い てあるのよ」 牟田「買わせようったってその手にはかからないよ」 麻田「買わせるなんて、そんなつもりはないわよ。着るだけ着てみてください。 今朝入荷したばかり、パリの本社から来た舶来品なのよ」 牟田「足が痛くて試着する気にもなれないね」    麻田、ハンガーに掛かっている黒いベルベットのドレスを取る。 麻田「シルク百パーセントのベルベットのドレス。柔らかくて生地に綺麗な陰影 があるでしょう。ねえ?」    別布が後ろで「まあ!綺麗!」と援護射撃。 麻田「ちょっと触ってみてください。触るだけ」    牟田、ムッとした顔で手を伸ばしドレスを触る。
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