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男は、水面から顔を出した。
水面が静かに揺れる。
髪から海水が滴り落ちる。
ここはどこだろうか。
記憶が定かではない。
視線を落とすと、黒い羽織袴を着ているのがわかる。
顔を上げると、大きな橋が見えた。
とても大きな橋で、照明が色鮮やかだ。
今いる所は江戸の海だろうか。
真っ暗な夜空には、大きな満月が浮かんでいる。
水面から出した左手を高々と上げたが、当然、天には届きそうもない。
静かに手を下すと、続いて前方を見た。
立ち並ぶ建造物。
煌々とした明かり。
他には女の巨像があり、建物には、大きな球体が安置されている。
ここは間違いなく、江戸の町が発展した未来の世界だろう。
光り輝く光景が、まぶしく感じられたが、この世界で生きていくうちに慣れていくはずだ。
ようやく、目を開けることができたのだ。
長き眠りでなまった体を元に戻す必要がある。
それにはまず、ここから泳いで、地上に上がらなければならない。
男がそう思っていると、かすかな声が聞こえてきた。
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