十こ目 忠義を尽くす信奉者

2/39
前へ
/370ページ
次へ
私は目を開けることができた。 なぜ私は生きているのだろうか。 確か祖父によって、喉をかき切られて殺されたはずだ。 大きな疑問があったが、とりあえず、辺りを見回してみることにした。 真っ暗な夜。 遠くをはっきりと見ることはできない。 状況を確認するため目を凝らすと、ぼんやりとだが、いくつもの墓石、五輪塔、卒塔婆が見えたような気がした。 ここは墓場だろうか。 記憶が定かではなかった。 だが今はそんなことよりも、左目に違和感があるのが気になった。 明らかに何かがおかしい。 不安を感じながらも、右手で顔を触ってみた。 右眼窩に右目はなかったが、左眼窩には左目があった。 確か、祖父に両目を抉られたような気がしたが、どういうことだろうか。 なぜ左目があるのだろうかと、不思議に思った。 それに、他にも疑問がある。 ひもがない羽織、着物、襦袢、袴、足袋、草履……。 着ているものはすべて、黒いものになっていた。 両手は青白く、髪は一つ結びになっているのがわかる。 一体どういうことだろうか。 誰かが羽織のひもを切り取って、髪を結んだのだろうか。 だがその時、重たい視線を感じた。 さっきまでいなかった者が、目の前にいるような感じがした。 あまりにも異様な気配だ。 どういうことなのだろうか。 地面に両ひざをついている私は、恐れながらもゆっくりと顔を上げた。
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

244人が本棚に入れています
本棚に追加