第一章・ーきえてくー

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 近所には幽霊屋敷と呼ばれる有名な廃屋がある。  特に何の恐ろしい話題もないのだが、風貌の恐ろしさからいつしかそうと呼ばれている。  特にどこかに在る和室の、床の間で飾られている一幅の掛け軸はヤバいらしい。  見ると呪われるだとか、描かれている絵が中から飛び出してきて見た人を殺すのだとか、中に引き入れるのだという、どれもこれも信憑性の低い噂ばかりだ。  そんなものがない事は俺がとっくに証明している。  何故ならこの俺が、毎日毎晩和室に立って、掛け軸を眺めている。  なのに、いまだ何の支障もない。  それどころか毎日元気で、掛け軸に描かれた荘厳な風景を眺めてはにやにやしているのだ。  そんな風にいると、結構な頻度で肝試しでここを訪れる輩と鉢合わせしそうになる時がある。  あまり面倒を起こしたくはないので、そんな時はいつも隠れてやり過ごす。  肝試しの連中にはろくな者がおらず、騒がしく迷惑なばかりで嫌いだ。  こうした奴らこそ、呪われてしまえば良いのにーー。  今日も馬鹿共が肝試しにやってきた。  五月蝿い。迷惑だ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。
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