雪の匂い

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 和海さんと迎える冬もこれで何度目だっけ……。 初めて和海さんと会ったとき、僕はまだ十七だった。 来年で二十二になるから……もう五回目? 昔「お前を借金の肩に買った」と言われて泣きそうな気持ちなったのは、この書斎だったな……。 月日が流れるのは何て早いんだろう。  感慨深い気持ちになって仕事の手を止めていると、和海さんが苛立ちを足音にのせて部屋に入ってきた。 部屋に入ってくるなり外套をソファに脱ぎ捨て、帽子を放り投げた和海さんは大きな舌打ちをした。 「まったく、爵位なんて貰うんじゃなかった。お高く止まった阿呆共のせいでこの俺の貴重な時間が無駄になってる。今日も中身のない話をぐだぐだとやりやがって……あんなままごとのような政治に付き合ってられるか!」 “第一秘書”と書かれた僕の机の前を大股で通りすぎた和海さんは、わざとらしく足を止めて僕を振り返る。 「おいおい、恋人が帰ってきたっていうのに、随分と薄情な態度じゃないか。」 僕は書きかけの手紙に原商会の判子を押してから、わざとらしく笑って見せた。 「お帰りなさいませ、原社長。」 「……まあ、そういう趣向も悪くないが、今は素直に迎えてもらいたい気分だな。」 そう言いながら僕の机に腰を下ろした和海さんは長い脚を組む。 それから僕の髪を手ですくい上げ、口づけをした。 鋭い切れ長の瞳がはらむ熱を独り占めにして、僕はなおもかしこまった態度を崩さない。 「それは大変失礼いたしました。ですが社長が先日喧嘩を吹っ掛けた大蔵省のお役人様からのねちねちとした恨み言の対応に朝から追われておりまして、とてもじゃありませんが素直に尻尾を振る気分にはなれなかったんです。」 そう笑顔で言ってやると、和海さんはふっと笑って僕の頬に手を添えた。 その手の優しさと温かさに思わず微笑むと、和海さんはまるで許しを乞うように僕の額に接吻を落とす。 「英、『おかえり』と言ってくれないのか?」 甘えてくる和海さんに弱いのを知ってるくせに、この人ったらなんてずるいんだろう。 嗚呼、そして僕はこの人に対してなんて甘いんだろう。 「おかえりなさい、和海さん。」 その言葉に、和海さんの表情が幸せそうに緩む。 「ただいま、英。」
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