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僕たちは互いの息遣いを手繰り寄せるようにキスをした。
何秒かの間心まで解け合ってから唇を離すと、和海さんの唇が纏っていた冷気が僕の唇に移っていた。
「唇、冷たいですね。」
指先で唇に触れながら言うと、和海さんは頭を傾けて窓の方へと視線をやる。
「雪が降ってきたからな。」
「雪……。今年の冬は寒くなりそうですね。」
「ああ。明日の朝は一面銀世界で、家から一歩も出られないかもしれないな。」
そんな軽口を叩きながら僕の体に腕を回した和海さんは、耳元で囁く。
「そうなったら、お前とずっとベッドで過ごす。」
「っ……まったく、よくもまあそう仕方のないことが次々思い浮かびますね。」
明るい部屋で交わすには艶めかしさが過ぎる会話に、頬には熱が集まった。
和海さんはいまだにこうだ。
僕のことをからかって、すぐに赤面させる。
そんな僕を楽しそうに見おろし、和海さんは長い指で僕の額にかかった前髪を持ち上げる。
「悪くないだろう?」
「わ、悪いですよ。いいですか、明後日はアメリカから帰ってくる松本さんを迎えに横浜まで行かなくてはなりません。そのあと神戸から上京してくる蛇沼さんを迎えに東亰駅へ、それから猿若町の蘭之助さんのお宅にご挨拶に行くんですから。そうして年の瀬はみんなで飲もうという約束だったでしょう?」
「ああ。松本も副社長になってから日本に帰ってくるのは初めてか。」
「松本さんがアメリカに行ってくださったおかげで、あちらの会社との取引が非常に円滑になりましたよね。」
「そうだな。あいつに関しては、ゆくゆくは日本に戻してやらんとなぁ。」
「へ?」
「お蘭が寂しがる。」
「ら、蘭之助さんが?なぜです?」
にやりと笑った和海さんは、僕の鼻をきゅっとつまんだ。
「ガキにはまだ早い話だ。」
が、ガキって……
僕もうまもなく数えで二十二になるんだけどな……。
むっとして和海さんを睨むと、にやにや緩んだ表情と正面からぶつかった。
子ども扱いは何年たっても相変わらずのようだ。
「……“ガキ”はもうそろそろ寝ないといけない時間ですから失礼しますね。」
机の上に広げた手紙やら書類をまとめてから腰を上げると、すかさず和海さんが腕を掴んできた。
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