雪の匂い

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 ざらりとした欲情の炎を瞳の中でくすぶらせた和海さんは僕を軽々と抱え上げると、ベッドまで待ちきれないとでもいうように、無数のキスを降らせる。 書斎からさほど遠くないはずの寝室までの道のりは、万里も続くような気がした。 それくらい、僕も和海さんも堪えることを忘れて互いを求める。 絡まり合う舌の隙間から零れた蜜のような唾液が顎を伝っていくのを感じながら薄目を開けると、ようやく寝室の扉が視界に入ってきた。 和海さんは例によって足でドアを押し開けると微かに葉巻の残り香が漂う部屋を大股で横切り、柔らかなベッドの上に僕を下ろす。 そして僅かな間も惜しむかのように僕のシャツに手をかけた。 「あ、ま、待って……!」 「いまさらおあずけか?」 「ちょ、ちょっとだけ待ってください。」 ええと、ズボンのポケットに……  ごそごそとポケットを探る僕を不思議そうに見下ろしていた和海さんだったけれど、僕が取り出したものを見ると驚いた顔になって目をぱちぱちと瞬く。 「これ……。」 「ちょっと早いですけど……えっと、なんだろう……お年玉?とにかく、はい。」 僕が差し出した包みを受け取った和海さんは困惑気味に片眉を吊り上げた。 「いきなりなんだ……。」 「開けてみてください。」 「ああ。」 掌に乗る小さな包みを丁寧に開け箱を開ける和海さんをどきどきしながら見上げる。 気に入ってくれるかな……  箱を開けた和海さんは、ふっと表情を緩めた。 言葉を聞かなくてもその表情を見れば僕のたくらみが成功したことは間違いない。 それでも和海さんの口から言葉が欲しくて、僕は尋ねる。 「気にいってくれました?」 「ああ。嬉しい。」 ぎゅっと僕のことを抱き締めてから、和海さんは箱の中におさめられていたものを取り出す。 「七宝焼きのカフスボタンか。繊細な色使いで、お前らしいな。」 「実はそれ、僕が作ったんですよ。」 「え?」 「職人さんに頼んで、七宝の部分だけ僕が。砂絵みたいで面白かったです。」 「そうか……お前が。」 噛みしめるように呟いた和海さんはふいに視線を外した。
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