雪の匂い

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「和海さん?」 「いや、お前に先を越されるとは思わなかったからな。」 「先を越される?」 いったいなにを? と言葉を続けようとした僕の目の前に、和海さんが小さな箱を差し出した。 「俺は残念ながら自分で作るというわけにはいかなかったが。まあ、お前の言葉を借りるならお年玉のようなものだ。開けてみろ。」 「え、これ、僕になんですか?」 「お前以外に誰がいる。」 少しぶっきらぼうに言ってから、和海さんは僕の手に箱を押し付けた。 小さな藍色の箱はそれほど重くない。 いったいなにが入っているんだろう?  恐る恐る箱の蓋を開けた先に現れたのは、銀色の指輪だった。 「指輪……?」 「西洋ではこうして、」 言葉を切った和海さんは箱の中から指輪を取ると、僕の左手を持ち上げた。 そして薬指に指輪をはめながら言葉を続ける。 「左手の薬指に指輪をはめるんだ。結婚の証にな。」 「け、結婚?!」 「こうして永遠の愛を指輪と一緒に身に纏うのさ。」 永遠の愛…… 薬指にぴったりとはまった指輪の軽やかな重みは、これから一生ともに歩く愛の重さ。 そう思うと、鼻の奥がつんとして、いつの間にか涙が零れ落ちていた。 「おいおい、泣くな。」 優しく僕を抱き寄せた和海さんの胸に額を押し付け、僕は泣いてなんかいないと強がってみる。 だけどこうぼろぼろと涙が落ちていったのでは、そんなごまかしもまるで意味がない。 「っ、ふ、か、かずみさんの……っば、ばか……。」 「ははっ、相変わらず口が悪い。」 「かずみさんにだけだもん……。」 そう言うと、和海さんはくしゃりと笑ってから大きな手を僕の頬に添えた。 「こういうときは『ばか』じゃないだろう、英?」 「…………すき。」 「いいこだ。」  そのまま額にキスをされ、体重をかけられたせいで僕はベッドに背中から倒れ込んだ。 沈み込んだ体を起こそうと上半身に力をいれると、それをおしとどめるように和海さんの手が僕の手に絡む。 指を一本ずつ絡められ、指輪をはめた指は指先から根元へとゆっくり辿られ、そうしてしまいには大きな手で握りこまれてしまう。 この温もりを指輪一つで縛れるというなら……
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