第1章

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容赦なく閉まった扉の轟音は容赦なく子供の耳をつんざいた。音の衝撃は胸をも抉る。階段を降りる、悲しい響きのヒールの音が聞こえる。日曜の朝なのに。楽しい日曜のはずなのに。私の悲しみを癒してくれるのは、ねこのぬいぐるみと、私の身を包んでくれるこの寝巻きと、部屋に差し込んでくる暖かい陽射しだ。寂しさを紛らわすためテレビを点ける。芸能人が笑って、手を叩いて。華やかに喋っている。その音があるだけで、幾分か救われる。昼はお母さんがごめんね、と言って買ってきてくれたコンビニのおにぎりとインスタントのスープと朝食の余り物のサラダを食べる。もちろん、テレビは点けたままで。友達の家は、ご飯を食べるときはテレビは消すと言っていたけれど、私はテレビを見ながら食べるのが常習なので、そんなことあり得ないと思った。お母さんも何も言わない。夕食までは気もそぞろに、本を読んだり、宿題をしたり、漫画を読んだりして過ごす。夕食は自分でつくる。つくるといってもカレーだったり、チャーハンだったり、簡単なものですませる。そしてお風呂に入って、明日の学校の準備を済ませてから就寝。お母さんは早くて七時、遅いときは私が寝ている間に帰ってくる。たいてい、お酒の臭いをさせて私のベッドのところまで来るから、お母さん帰ってきたんだなと脳がそう感じる。私の日曜は、だいたいそんな過ごし方だった。  その週の日曜もいつもと変わりなく過ごす予定だった。  お母さんが仕事に出掛けた後、テレビを点けると音楽番組が生放送されていた。どうやら朝から昼まで一日中やるらしかった。宿題を終え、昼ごはんを食べながらぼうっと見ているカラフルな衣装を身に付けた女の子たちが出てきた。中学生くらいのその子たちが、大人っぽく見えた。お化粧もして、髪もきれいで、程よく露出もしていて、当時の私とは大違いだった。寝巻きのままに、髪はぼさぼさで化粧のけの字も知らない。でもそんなことお構いなし、ご飯を食べることも忘れ、私の目は女の子たちに釘付けだった。とてもキラキラしてて、可愛くて。カメラが捉えるコロコロ変化する表情。衝撃を受けた。この世界にこんな子たちがいるんだ……。私は一瞬にして心を奪われた。
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