第1章

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チョコの甘さが涙に沁みた。その甘さに無償の愛を感じ、私は右手で包み紙を握りつぶし、私は唐突に「私も小学校の先生になろう」と思い立った。先生のような先生にー……。涙のしょっぱさとチョコの甘さに私は誓った。  確か、卒業間際の授業だった。黒板には「将来の夢」と書かれている。前の子の番が終わった。 「では、森岡さん」  はい、と静まり返った教室に私の頼りない返事と、椅子を引く音が響く。 「森岡さんの将来の夢はなんですか?」 クラスの皆に見つめられ、酷く緊張していた。人前で自分の気持ちを言うのは、苦手だ。でも、この気持ちだけは譲れない。私は自分に誓ったんだ。 「小学校の先生です」  教室中に鳴り響く拍手。 「あら、私と同じね。楽しみにしています。森岡さん、ありがとう」 「では、……」  あれから十八年が経った。私は誓い通り、先生になった。    扉を閉め、鍵をかける。ガチャガチャ、と寂しそうな音が鳴る。パンプスを脱ぎ、家に上がる。直に伝わる床の感触が懐かしい。二歩進んだところで、思い直し、脱いだ靴を丁寧に揃える。鞄を椅子に置き、上着を脱ぎ、部屋着に着替える。ゆったりとした服の素材が気持ち良い。緩んだ気持ちによし来たと襲ってきた眠気によろめきながら、髪を高い位置に結び直し、毛束を撫でる。よし、良い感じ。それから台所に入り、インスタントのコーヒーを淹れる。マグカップに粉を入れ、蛇口を捻って電気ケトルの中に冷たい水を入れる。セットし、ボタンを押す。一旦居間に戻り、鞄の中から携帯を取り出し充電する。次にノートパソコンを取り出し、電源を付ける。インターネットを立ち上げ、動画サイトにアクセスする。電気ケトルの中で水が煮立つ音が聞こえ始め、湧いたことを知らせる小さな破裂音が耳を突く。マグカップにお湯を注ぎ、スプーンでかき回さないまま取っ手に指を引っ掛け、ノートパソコンを軽々と持ち上げソファに直行する。壁にはミニスカートに大胆にも肩を出し、ポーズを取った女の子達のポスターが飾られている。下にはおしゃれなロゴで「make?(月)dream」と書かれている。真ん中には三日月が煌々と輝いている。体を二つに折り曲げ、腕を伸ばして鞄を無理やり取る。
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