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「あーいて」
誰にも聞かれない、虚しい声が喉から出る。しかし一人のこの部屋も慣れてしまった。今はもう、何も感じない。
先に仕事やろうか、でも明日は土曜日で休みだしな。鞄を膝の上に置き、ファイルの中を確認する。採点、日直ノートのコメント……。あれ、今週はこんなもんか。日直ノートだけ目通しておこう。
「五年一組 日直ノート」と黒表紙に白抜きで書かれた文字を一撫でする。授業中の皆の真剣な眼差し、休み時間の一つのうねりとなって教室を走り回る話し声、笑い声、給食の教室の匂いごと食べているような感じ、掃除の時の鼻を突く埃、全ての感覚が肌に感じられる。ああ、小私学校が好きなんだなと嬉しく思う瞬間だ。ただ、たまにどうしようもなく胸が苦しくなり時がある。なんでだろう。切ない。苦しい。胸の奥の心臓が何かを訴えている。なんでだろう…?理由も分からなければ、涙も出ない。こんな気持ちで教師をやっていることに後ろめたさを感じる。ごめんね、先生こんなんで。クラスの子達を思い浮かべると、余計に罪悪感に駆られる。子供達だけじゃない、学校に、教師に自分の子供を預けている親御さんにも申し訳ない。こんな気持ちを断ち切りたい。そう願えば願うほど、ますます気持ちに体が縛られていく。
あーーー。だめだ、だめだ、だめだ。頭を大げさに振って、悪い考えを振り払おうとする。背中でポニーテールが揺れている。ノートに掛けていた手を剥がし、ソファの前に置いてあるガラス張りの机に置く。こんなんじゃだめだ。今日はもういいや。アイドル見よ。そう考え、パソコンに手をつける。動画サイトのウインドウをクリックし、「make dream」と検索する。コンマ数秒後、ずらりと並んだサムネイルを物色する。これは見た、これも見た…そこで公式のチャンネルのページに飛び、新しくアプロードされた動画はないか確認する。あっ、新しいのある。今日の夕方に更新されたんだ。この前のライブ映像だ。カーソルをサムネイルに持っていき、クリックする。読み込みが遅く、矢印が回っている。
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