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画面の右端の、アナログ表示の時計を見遣る。9:15。よし、十時半くらいまで見てそれからお風呂に入って、寝よう。マグカップの淵を口元に持っていく。ずずずっとコーヒーをすする。まだかなあ。Wi-Fiが切れているのかと思って、ルーターのとろまで向かおうとしたら「いくぞーーー!!!」という元気の良い、怒号が聞こえてきた。あ、動画始まった。いそいそと戻ると膝にパソコンを置き、背中をソファに預ける。目は推しメンバーの慎月りんちゃんを追っている。なんでこんな可愛んだろうな。はー幸せ。しばし、至福の時に包まれる。こんな時が永遠に続けば良いのに。ふとこんなことを思う。最近の自分はどうかしている。教師生活六年目にして疲れが出てきたのか。わからない。こんな時に頭の中を埋め尽くすのは真っ黄色だった。レモンの単純な真っ黄色。あーあの真っ黄色の中に飛び込めたら。最近読んだ『檸檬』の影響かもしれない。ぼうっと画面を眺めていると視界がだんだん、黄色のペンキで侵されていく。と、その時、視界が晴れた。黄色が消え去った。もう一口、コーヒーをすすって目を、頭を覚ます。なんだろう。この感覚。何かが、私に訴えかけてくる。光がめくるめき、交差する絵の中を見つめる。短いスカートを揺らし、髪を弾かせ、汗を輝かせ、衣装に包まれた華奢な身体を軽快に揺らし、最善で踊るメンバー。違う。最善のメンバーとメンバーの隙間から、点滅するライトさながらバックで踊るメンバーが弾ける笑顔をのぞかせる。あっ。もしかして。動画を停止して、部屋の奥に取り付けられている本棚に向かう。年代順に並べてあるのですぐに見つかった。「2011年度 苅田小学校 卒業アルバム」。急いでページを捲る。最後の方にあったはず。暖房の風に包まれた身体は冷えつつあった。しかしそんなの御構い無しで脳ミソは熱を帯び始める。絶えず、ページを捲れと指に命令を送り続ける。あった。そのページには、卒業生全員が将来の夢を書いた画用紙を手に持ち、新内閣発足記念写真さながら、集合写真が載っていた。小説家、声優、ケーキ屋、車屋、漫画家、幼稚園の先生、サッカー選手……本当に、色褪せない。この子達の夢は、このままだ。何も恥ずかしがらずに、何も疑わずに真っ白い画用紙に、色ペンで夢を描く子供達。
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