第1章

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その夢が叶おうが、サラリーマンになったって、専業主婦になったって、いつまでもこれらの夢はこの写真に閉じ込められたまま。それを残酷と考えるのか、美しいと考えるのかは人それぞれだが、私は毎年、微笑ましくなると同時に哀しかった。なんだか、夢を置き去りにして学校を卒業してく気がしていたのだ。この中の何人が夢を叶えるのだろう。そう、つい思ってしまうのだ。  一人一人の顔を、当時を思い浮かべるように追っていく。ある女の子の顔で目は止まるアイドルのような笑顔ではなく、額に気でも集中させているような真剣な顔つきだが、顔の両サイドで結んでいる網型は今も昔もそのままだ。腕に掲げた画用紙には、カラフルな色使いで「アイドル」と書いてあった。  そっかあ。この子、夢追っかけているんだ。確か私と同じ、かなえちゃんだった気がする。そっかあ。アイドルになったんだね。私の目から知らず知らずのうちに涙が出てきた。無性に込み上げてくるものがあった。  新田香苗は私が教師生活一年目で受け持った生徒だった。親御さんから「レッスンに通っているので、早退が多いと思います。よろしくお願いします」と言われ、教師としてどの言葉を掛ければ最善なのか分からず、「あ、はい分かりました」としか言えなかった記憶が蘇る。当時三年生で、こんな早い時からレッスンなどに通うんだと驚いたものだった。かなえちゃんは母親の隣で意思の強そうな目を晒していた。何かの授業で将来の夢を聞いた時も、クラス中の六十何個の瞳にも動じることなく、堂々と「アイドルです」と言って見せていた。その子を受け持ったのは一年間だけだったが、意外と思い出せる。脳の内側に色々な記憶が、様々な色のペンキとなってこびりついている。カラフルだ。パステルカラーもあれば、どす黒いもの、パキパキの極彩色、純粋な白、本当いっぱいある。新田香苗ちゃんの色は黄色だった。鮮やかで、単純だけど、混じり気のない黄色。
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