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アルバムを手に取って、パソコンの前まで戻る。停止した画面には、僅かなスポットライトに笑顔を見せている。その顔は紛れもなく写真の中にいる、私の頭の中にいる新田香苗の面影を確実に残している。顔立ちはあの頃より、大人っぽく整っている。再生ボタンを押す。卒業から六年、どれくらいのレッスンを積んだんだろうか。アイドルを見続けてきた私の目には、もう、そのダンスのキレは十分に納得出来るものがあった。自分の教え子がこうして、夢を叶えていく姿を目の当たりにしたのは初めてだ。あの力のこもった目でずっと頑張ってきたんだろう。光を浴びて披露するたった一回のステージの裏に、どれくらいの練習、苦労があったんだろう。それらを乗り越えて、彼女は晴れ晴れしくステージに立っている。それを思うと、鳥肌が全身を襲った。新田香苗が一歩前に出ながら、前の子のフレーズに続いて歌い出す。「見失いそうになったら」長い腕を体の前で優雅に動かす。「あの頃の夢を思い出して」足で地面を蹴る振りをしながら、ガッツポーズ。新田さんが後退して別の子が出てきた。「それでもダメなら」口元の艶っぽく人差し指を当てる。「新たな旗を掲げて」何故だか、私の目には涙で溢れかえっていた。ああ、こんな陳腐な歌詞で泣くなんて。陳腐で単純だけど、力強い歌詞。泣きながらも、私の心は闘志で燃えていた。
月曜日。風が雲を吹き飛ばしている。寒い日が続くが今日も私は元気に小学校に向かう。
「見失いそうになったら あの頃の夢を思い出して それでもダメなら 新たな旗を掲げて」
私の新たな旗。確かめるように私は空を仰いだ。
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