第二章 横浜館

8/20
前へ
/285ページ
次へ
「これ、扉の上の部分だけなんですよ。あっちに完全な形のがありますね」  振り返り、明らかに扉の形をしたものを指差す。  そちらは、極彩色に彩られていた。  日本人の感性なのか、悠紀個人のものなのか、壊れていても、この真っ白な扉の方が、神聖なものと感じられた。 「偽扉ってなんだよ?」  横に立った葛西が問う。 「本当に開くわけじゃない扉ですよ」 「開かねえ扉になんの意味があんだ?」 「これは現世と来世を繋ぐ扉なんです。墓にある礼拝室の、西の壁にあったとか。  人は死ぬとバーとカーに別れ、バーはこの扉を抜けてあの世に行き、カーはミイラの近くに留まり、供物を捧げられて永らえると思われていたんです」
/285ページ

最初のコメントを投稿しよう!

365人が本棚に入れています
本棚に追加