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携帯の画面に映っていたのは着信メールを伝えるアイコンの点滅だった。
「お母さん!」
年賀状を取りに玄関へ出た娘が表から叫んでいた。
「何よ、大きな声を出して!」
携帯はそのままにして、私は表に急いだ。
「どうしたの?」
「置いてあった!」
「でもどうして? だれが置いたのよ?」
小学二年生になる娘は大きなクリクリとした瞳が可愛い。
細い目の夫も私に似ていると言う。
「分からないよ。だって置いてあったんだもん」
「何処によ……」
娘の身体には大き過ぎる花束を私は預かった。
「ココ」
「うん、分かるけど」
花束を見つけた場所は、玄関の脇、外からでも置けそうな場所だった。
「サンタさんじゃないの?」
「今ごろ?」
私を見上げる娘の顔、それは紛れもなくあの人のそれだった。
「道に迷ったとか?」
「かもね」
「お母さんの誕生日だからじゃない?」
「かもね」
花束には私が好きな赤いバラが沢山ある。
「でも誰なのかな?」
「誰だろうね」
娘と家に戻り、夫が何事かと二人を見ていた。
「あけましておめでとうございます」
「お父さん、おめでとうございます」
私はこの人を選んだ。
夢ではなく、平凡な幸せを。
だから届いたメールもあて先に見覚えがなかったから、開かずに捨てた。
でもありがとう。そしておめでとう。
でももうあの頃には戻れない。
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