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天使が私に差し出したのはライブのチラシだった。
「明日、僕らもライブをやるから見に来てよ」
天使は言った。
チラシを手に取ると。
インディーズバンドのライブだとわかった。
会場は大きなコンサートホールじゃなくて、もっと小さな表参道にあるライブハウス。
バンドの名前はar(アール)。
「このチラシを見せれば、ライブ代は無料になるよ」
天使は優しく囁いてくれたけれど。
私は頭が目の前の出来事についていけなくて、返事ができなかった。
何も言わない私に天使は笑いかけて。
そして、私の前から去って行った。
私は。
天使がくれたチラシを見ながら。
行ってみたいな。
と、思いはじめた。
そして、ようやく、そこから立ち上がることができた。
☆ ☆ ☆
次の日。
私はそのライブハウスに行った。
表参道RAISE。
アクセサリーや洋服のショップの入ったビルの地下。
初めての場所って入りにくいな。
入り口の前でチラシを持ってうろうろしていると、女の人に声をかけられた。
「arを見に来てくれた人?」
綺麗なお化粧をした大人に女の人だった。
声をかけてもらって、私は、ほっとした。
「はい。あ、これ、チラシ」
私がチラシを差し出すと。
女の人は「はいはい。はじめての人ね」と言いながら、持っていた大きなバックからチケットを取り出して、私に渡してくれた。
「はじめてライブに来てくれた人は、ライブチケット代はサービスします。ドリンク代600円はサービスできないんだ。ライブハウスの受付で払ってね。中に入って、すぐあるから。
あ、そだ。名前教えてくれる?」
「由紀恵です。芹沢由紀恵」
「そか。じゃあ、ゆきちゃんだね。
ゆきちゃん、楽しんでいって。arの出番、すぐだから」
「はい」
女の人はひらひらと手を振って、見送ってくれた。
言われた通りに、中の受付でドリンク代を払って、それから、ホールに続くドアを開けた。
そこでは。
☆
昨日の天使が歌っていた。
歌っているのは讃美歌ではなくてロックだったけれど。
天使は激しく歌うボーカルだった。
甘くかすれた高音と艶のある低音が魅力的で。
頭を振るたびに茶髪がさらさらとゆれてきれいだと思った。
天使の名前は「悠宇」と言った。
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