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携帯の画面に映るのは、とある女性の名前。
高野渚。俺の妻だ。
「もしもし」
俺は少しぶっきらぼうに電話に出る。
「あ、もしもし。電話大丈夫だったかな?」
そんなぶっきらぼうな第一声を気にもしていないのか、明るく弾むような声色だ。どうしてか、俺はこの声が嫌いだ。
「大丈夫だから出たんだけど」
少しイライラしていた。何故?そんなの俺が知りたいくらいだ。
「う……そうだよね。ごめんごめん」
ほんとにこの女がへこたれている姿も声も、俺は見たことがない。ずっと笑っている。
「で? なに?」
それに対して俺は何かと卑屈だ。辰柳渚と俺との出会いは、マイナンバーが施工された7年後に新たに施工された『My Lifa法』が始まりだ。
「今日って何の――何時に帰ってくるかなって」
夫婦とはいえ、国が法律で作った夫婦だ。要するに『鉄砲玉数撃ちゃ当たる』の精神だろう。一つの少子化対策の法律だ。だが、こんな風に束縛される人生の何が楽しいのか。恋愛を経験してこなかった俺には苦痛でしかない。
「暗くなる前には」
何時とは約束したくない。揉める原因だ。面倒だと逃げるにも法に縛られた俺達は平和的に日々を消化するのがお似合いだろう。
「わかったよ! 気を付けて帰ってきてね! それじゃ!」
随分テンションの高い声で通話は一方的に切られた。まぁ、この法が成立してからというもの『選択肢の自由』という言葉を良く耳にするようになった。しかし、帰る家の選択は出来ない。実家も例外ではない。よって、帰る場所など決まってしまう。
選択肢の自由というのは、優柔不断な現代人にとっては都合のいい制度なのかもしれない。
学生であれば、成績によって将来の選択肢を2択で提示される。社会人であれば、入社時に務める部署を2択で提示される。そして、23歳になると恋人の有無など関係なく、既婚者以外の男女に結婚相手の2択を迫られる。この法律に逆らうと30万円の罰金だけなのだが、よっぽどでなければ拒否をする人も少ない世の中になってきた。
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